ノーベル文学賞にノルウェーの劇作家 ヨン・フォッセ氏
ことしのノーベル文学賞に、世界各国で戯曲が上演され、詩のような特徴的なせりふ回しで知られるノルウェーの劇作家、ヨン・フォッセ氏が選ばれました。
スウェーデンのストックホルムにある選考委員会は5日、ことしのノーベル文学賞にノルウェーの劇作家、ヨン・フォッセ氏を選んだと発表しました。
フォッセ氏は1959年、ノルウェーに生まれ、1980年代前半から小説や詩集、それにエッセイなどを次々と発表しました。
1990年代からは生や死などをテーマに、句読点がなく、詩のような特徴的なせりふ回しの戯曲を数多く手がけました。
このうち代表作の「だれか、来る」についてノーベル賞の選考委員会は、作品のなかでことばや劇的な行動を減らし、不安や無力感という人間の最も強い感情を最も簡単な日常の会話で表現しているとしています。
フォッセ氏は「近代演劇の父」と言われるノルウェーの劇作家、イプセンの再来とも呼ばれ、その作品は多くの言語に翻訳され、世界各地で上演されています。
フォッセ氏について選考委員会は「現在、世界で最も幅広く上演されている劇作家の1人だ」とした上で、「革新的な戯曲と散文でことばに出せないものに声を与えている」と評価しています。
ノーベル文学賞に選ばれたヨン・フォッセ氏はロイター通信に、「圧倒されるとともに、いささか怖さも感じています。私は何よりも文学であることを目指した文学に与えられる賞だと考えています」とコメントしています。
ノーベル文学賞に選ばれたフォッセ氏の戯曲を日本語に翻訳した東京藝術大学大学院の長島確 准教授は「とても嬉しかった。毎年候補にあがっていたので、『やっと』という気持ちだ」と喜びをあらわにしていました。
フォッセ氏の戯曲には登場人物に名前がなかったり、舞台設定がはっきりと示されていなかったりすることが多いとした上で、「せりふがシンプルな会話で、詩のように書かれている。強いメッセージがあるわけではなく、平明な淡いことばの繰り返しから、不安などいろいろな感情がなんとも言いがたい形であらわれてくる」と作品の魅力を説明しました。
そして、「作品は名もない人々の生活のなかにある喪失感や孤独、思い出がデリケートに扱われ、普遍的な人間の気持ちを描いている。どんどん紹介されていってほしい」と話し、受賞が決まったことをきっかけに日本でもいっそう知られてほしいと期待を示しました。
ことしのノーベル文学賞の発表にあわせて海外文学ファンたちが集まるイベントが東京都で開かれ、ことしの受賞者が発表されると大きな歓声が上がっていました。
このイベントは首都圏の海外文学ファンのグループがノーベル文学賞の発表に合わせて、毎年、この時期に開いていて、ことしは東京・渋谷区の会場とオンラインであわせておよそ40人が参加しました。
グループではノーベル賞を海外作品の魅力を知るきっかけにしてもらおうと、候補として名前の挙がる作家などおよそ40人分の作品を分担して読み込んだ上で、それぞれの紹介文を書いて冊子を作りました。
会場には世界各国の作家の著作およそ80冊が持ち寄られ、参加者は分担した作家の魅力を語りあいながら発表の瞬間を待ちました。
参加者はそれぞれことしの受賞者の予想も発表し、イベントを主催した浦野喬さんはヨン・フォッセ氏の名前を挙げていました。そして午後8時、その予想が的中してフォッセ氏の名前が発表されると、会場は大きな驚きと歓声に包まれました。
翻訳でフォッセ氏の戯曲を読んだことがあるという女性は「3度目の参加ですが、予想が当たって興奮しました。受賞をきっかけにほかの作品も読んでみたいです」と話していました。
イベントを主催した浦野喬さんは「場面や台詞の繰り返しなど表現の面白さが魅力の作者です。受賞をきっかけに、ほかの作品の翻訳も進んで読める作品が増えてほしい」と話していました。
都内の書店にはフォッセ氏の作品のコーナーが急きょ、設けられました。
東京・新宿区の紀伊國屋書店新宿本店では受賞者の発表を行う会見の模様を店内に設けたモニターで上映し、文学ファンが見守りました。
午後8時すぎに日本の作家の受賞がないことが分かると、集まっていた人たちからため息がもれました。
リンク:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231005/k10014216631000.html