検索、また検索…物忘れ悪化 脳に過度の負担 学力にも影響
[依存社会]第1部 スマホ
もはやスマホなしでは生活できないという人も多いだろう。一方で、過度な長時間使用で暮らしに支障を来すこともある。
「相手の名前が出てこない」「大事な会合に出るのを忘れてしまった」――。おくむらメモリークリニック(岐阜県岐南町)の「もの忘れ外来」には、こうした症状を訴えて来院する40~60代の中高年が増えている。多くに共通するのが、肌身離さずスマホを持ち歩いて、頻繁に使っていることだ。
同院理事長で脳神経外科医の奥村歩さんは「脳に過度な負担をかけていることによる一時的な認知機能の低下である脳過労の症状」と指摘。スマホの使い過ぎが主な原因と考えられることから、「スマホ認知症」と名づけて警鐘を鳴らしている。
奥村さんによると、脳の記憶のメカニズムは3段階に分けられる。〈1〉情報を見たり聞いたりして脳に入力する〈2〉入力した情報を整理する〈3〉整理した情報を取り出して言葉にする。スマホ認知症などの脳過労は、第1段階で脳が膨大な情報にさらされ、第2段階がフリーズし整理できず情報が取り出せない状態という。
3年前に同外来を訪れた東京都の60代の男性は、スマホを購入し半年ほどで依存状態に。ネットでニュース検索するのが楽しくて、トイレや風呂、ベッドでもチェックするように。同時に、頭痛など体調が悪化し、物忘れがひどくなった。
男性は受診後、スマホを見る時間を減らすと、3か月ほどで体調は元にもどった。奥村さんは「脳過労は、真面目な性格の人や仕事熱心な人ほどなりやすい。ストレスや家族の悩み、親の介護などが加わるとさらに悪化しやすい」と話す。
子どもの学力に与える影響についても研究が進む。東北大加齢医学研究所長で脳科学者の川島隆太さんは2010年以降、仙台市教育委員会と協力して調査を行っている。その結果、子どもが1日に使うスマホの時間が1時間未満では学力の低下が見られないのに対し、1時間以上だと学力が下がっていたという。
さらに川島さんは、5~18歳の子ども約200人の脳の発達をMRI(磁気共鳴画像)による検査で3年間追跡調査した。すると、ネットの使用時間が長い人は短い人と比べると、大脳皮質の神経細胞や大脳白質の神経線維の発達が抑制されたり、遅くなったりしていた。川島さんは「スマホの長時間使用が脳の発達を阻害して、学力が上がらなくなっている可能性がある」と話す。
急速なスマホの普及に対し、人への様々な影響についての研究はまだ十分ではなく、解明されていないことも多い。スマホの利点と心配される面をきちんと理解しながら使用したい。
リンク:https://www.yomiuri.co.jp/life/20210610-OYT1T50071/
[単語]
1. 肌身(はだみ):はだ。からだ。
2. 警鐘を鳴らす(けいしょうをならす):事態が悪しき方向へ向かおうとしている事を指摘する。