AIでスマイル判定 愛知の保育園「笑顔採用」募集スタート
「笑顔採用」始めます-。愛知県内で複数の保育園を運営する企業が22日、AI(人工知能)で面接者の笑顔を判定し、採用の評価基準とするユニークな採用活動を始めた。「AIは面接用のぎこちない笑顔さえも見抜く。客観的に評価したい」と担当者。珍しい取り組みは、人材難などの課題を抱える業界に一石を投じるだろうか。
愛知県内で保育園など5施設を運営する「グローブ・ハート」(名古屋市)。IT企業「バイタリフィ」(東京)とともに、笑顔レベルを数値化するAIシステムを共同で開発した。AIは開発段階で多くの人の笑顔を学習。蓄積されたデータを基に、対象者の笑顔度を判定する仕組みだ。
面接官が対面で面接者に質問するなどの形式は従来と変わらない。しかし、その様子はスマートフォンで記録され、面接者の笑顔度は1秒ごとにグラフ化される。一定レベル以上の笑顔が続いた時間も計測可能できるという。
15分間の面接を100点満点で採点し、対面での評価が50点、残り50点をAI測定分で評価する。
「取り繕ったスマイルも見抜く。美人かどうかも関係ない」。グローブ・ハートの小沢清隆代表(33)が力を込める。22日朝にはデモンストレーションを行い、受験生役の男性社員をスマホで撮影しながら笑顔レベルを測定した。
保育士は離職率が高い職種とされる。各種調査では離職理由の上位に「人間関係」が入るため、同社は人材確保・定着の切り札として笑顔の力に着目した。
ユーザー目線でも同じだ。保育園を選ぶ際、約半数以上の保護者が「園の雰囲気」を重視するとの調査結果もある。保護者側の信頼を得るためにも笑顔は重要と考えたという。
笑顔採用は、22日から募集を始めた来年度入社の新卒採用で導入する。面接は9月1~3日に実施予定だ。小沢代表は「笑顔あふれる園は保育士も辞めにくく、子供や保護者からも選ばれる。新型コロナウイルス禍で暗いニュースが多い社会に、明るい取り組みを届けたい」と話していた。
■職場や子供に好影響、笑顔の力
笑顔をテーマとしたコンサルティングなどを行う「日本笑顔推進協会」(東京)によると、笑顔になれば、脳内にセロトニンという物質が分泌される。「幸せホルモン」とも呼ばれ、睡眠の質の向上やストレス軽減につながり、アンチエイジングも期待できるという。
笑顔の効果を研究する早稲田大の菅原徹招聘(しょうへい)研究員によると、接客業などでは社内教育の一環として、笑顔トレーニングを行う企業がある。ただ今回の保育園のように、AI判定の笑顔を採用基準に取り入れる企業は「聞いたことがない」という。
「短時間のAI判定で人の笑顔を完璧に判断するのは難しいが、容姿に関係なく、客観性が保てるのが良い点だ」と菅原氏。笑顔が乳幼児の成長に好影響を与えるとの調査結果もあるといい、保育園の取り組みを一定評価する。
大人の世界でも同様の傾向がある。
菅原氏らが美顔器メーカーの社員を対象に行った模擬実験では、笑顔と業績に相関関係があることが判明。成績優秀な社員はそうでない社員と比べ、営業活動の際にぎこちない笑顔がなく、状況に関わらず自然な笑顔を出せていた。
「職場が笑顔なので業績が良い」と、笑顔の効能を語る経営者も多いと菅原氏。「(笑顔で)生産性向上や業務効率化にもつながる。保育園のように笑顔を重視する取り組みがもっと広まれば」と話した。
リンク:https://news.yahoo.co.jp/articles/9bdee293cedf5f8f2a7c654c72d6a45704db4ac5
[単語]
1.ぎこちない:動作や話し方などが滑らかでない。
2.見抜く(みぬく):奥底まで見とおす。表に現れない真実・本質を知る。
3.一石を投じる(いっせきをとうじる):反響を呼ぶような問題を投げかける。
4.取り繕う(とりつくろう):不都合などを隠そうとしてうわべを飾る。
5.切り札(きりふだ):とっておきの最も有力な手段。