人吉温泉街は泥まみれ「客足戻り始めた矢先に…」 熊本県南部豪雨
暴れ川と化した濁流が街を丸ごとのみ込んだ。「信じられない」「球磨川の水位がここまで来るとは」。未曽有の豪雨災害から一夜明けた5日、市の中心部の大半が浸水した熊本県人吉市の街並みを歩いた。
球磨川の右岸から50メートルほど離れた九日町通り。水はほとんど引いていたが、立ち並ぶ店の看板は泥をかぶり、信号機は消え、茶色一色に。「濁流が2階まできた」と老舗の履物店を営む益田啓三さん(70)。水が迫った4日午前9時ごろ、必死に隣の旅館の屋上によじ登った。「1965年の大水害でも漬かったのは1階まで。今回は比べものにならん」
辺りには、流された車が縦に“逆立ち”していたり、テーブルが街灯の明かりに引っ掛かっていたり…。背筋が凍るような光景だ。
飲食店街では、雨の中、テーブルやいすを表に出し、泥をかき出す姿が見られた。洋風居酒屋を営む東一男さん(58)は「もう失うものは無くなった」と、泥だらけの店内を見渡し、力なく笑った。新型コロナウイルスの影響で遠のいた客足が、ようやく戻り始めた矢先の被災。「昨日もたくさん予約が入っていたのに…」
温泉旅館や球磨焼酎の蔵元も被害を受けた。国登録有形文化財に指定されている木造の芳野旅館は1階の大部分が浸水し、「復興まで1年以上かかるかもしれない」と田口善浩専務(46)。繊月酒造は蒸留設備などは無事だったが、商品が浸水し軒並み出荷できなくなった。
中心街から球磨村方面に球磨川を約2キロ下ると、全長約200メートルの西瀬橋の一部がぷつりと途切れていた。「頑丈そうな鉄橋が、まさか流されるなんて…」。左岸脇に住む主婦の塩田ひとみさん(70)は声を震わせた。人気アニメ「夏目友人帳」のモデルにもなり、写真を撮りに来るファンも多い。「普段はとってもきれいな場所。復旧はいつになるのか」と不安げ。
降り続く雨の中、懸命に作業するボランティアの姿も。南稜高1年の荒木詠音さん(16)は友達3人と浸水した商店の片付けを手伝った。「少しでも力になりたい」と泥だらけの顔をぬぐった。
国宝・青井阿蘇神社の社殿は床上浸水したものの、大きな損傷は無かった。ここでも中高生約50人が、泥かきに当たっていた。その姿を見詰めながら福川義文宮司(56)は「人吉は大変な状況になってしまったが、若者の行動に復興の可能性を感じた」と力を込めた。
リンク:https://news.yahoo.co.jp/articles/9bc51b11bf37d3ef3a97b7eda00a7304323ec4e6
[単語]
1.~まみれ:名詞の下に付いて、そのものが一面に汚らしい感じでついていることを表す。
2.矢先(やさき): 物事が始まろうとする、ちょうどそのとき。
3.老舗(ろうほ):何代も続いている古くからある店。
4.履物(はきもの):足に着用されるものの総称。靴、ブーツ、下駄などを含む。
5.軒並み(のきなみ):(副詞的に用いて)どこもかしこも。どれもこれも。
6.復興(ふっこう):いったん衰えたものが、再びもとの盛んな状態に返ること。また、盛んにすること。